増えすぎた人口により世界規模で飢餓が蔓延。
残された僅かな資源を有効に活用するため各国で独自の施策を実施。
ある国では人口を減らす目的で個人の自殺を容認。
そして同時に、腹部の容量測定を義務化した。
前回のお話
あれ…パンの匂い?
窓から差し込む朝日、お母さんが台所でパンを焼いている。
焼きたてのあったかい湯気と、ふわっとした甘い香り。
「ほら、もっと食べて大きくならなきゃね!」
気づけば目の前に次々と豪華な食べ物やお菓子が並ぶ。

もぐもぐ、ごくん――
こんなに美味しいものを食べたのは久々。
もう、食べ過ぎてお腹が苦しい。
「まだまだ食べられるでしょ?ほら、我慢しないで。」
お母さんは笑顔のまま、私の口元にパンをぐいっと押し当てる。
何とかそれを食べきってもケーキやシチューも次々と口元へ運ばれてくる。
もう無理だよ…苦しい…っ…!!
「ごぼぉっ!!」

「ごめん、お母さん、吐いちゃった…むぐっ!?」
「いっぱい食べて!!ほらもっと!!ほらぁっ!!」
机の食べ物が手あたり次第に口に押し込まれる。
早く飲み込まないと!!
息が出来ない!!
ごくん、ごくん、ごくん――
「もっと大きくなれるでしょ!!我慢しないで!!」
お母さんの手は止まらない。
優しかった笑顔はどんどん歪んで、目がギラギラと光る。

「まだまだ大きくなれるわね!!もっと、もっと!!」
や、やだ…おかあ…さ…たすけ…やめてぇっ!!
パンの匂いが遠ざかり、意識が遠のく―――――
「……っ…ぐっ!?」
突然、お腹に激しい痛みが走る。
「がはっ!?はひゅっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
い、息が…っ!?
肺に空気が…入らないっ!!
ガタッガタッ
身体が勝手に捻れて椅子が激しく揺れる。
「悪夢でも見ましたか?寝ている間に7000ccも入りましたよ。」

な、何…このお腹っ!?
えっ、ゆ、夢!?
そ、そうだ…私…腹部の容量測定で施設に来てて……
ギチッギチッ!!
両手が縛られてて動けないっ!?
「やだっ…やだやだ!!助けてえぇっ!!」
「大丈夫ですか?あまり力を入れるとお腹が破れますよ。それと……」
係員の女性が言葉を続ける。
「もし、爆弾の作動をご希望の場合は、遠慮なくお知らせください。」
そうだった。
私の股には爆弾が入ってて、苦しかったらいつでも楽に……
で、でも…絶対にそんなのダメッ!!
こんな姿のまま死ぬなんて絶対にイヤッ!!
しっかりして、私。
ここで諦めないで、絶対に生きて帰るんだから。
「落ち着きましたか?」
私はゆっくりと頷く。
「ここからはゆっくりと入れていきます。次は8000ccです。」
シュー…
機械が作動する音がやけに大きく響く。
お尻から冷たい空気が一気に体内へ押し込まれていく感覚。
ゆっくりとお腹が迫り上がりこの調子ならまだ入りそう。
ミヂッミヂミヂッ!!!
「!?…があっ…あががっ!!」

喉の奥から獣のような声が勝手に溢れ出てきた。
何かが引き裂けるような激痛。
空気で膨らんだ胃や腸がギチギチとひしめきお腹の皮がピンっと突っ張る。
「あ、もうお腹限界ですね。これ以上は膨らみません。」
え…?
お腹が、膨らまない…?
係員は淡々と説明を続ける。
「このまま空気を入れると、圧力で破れるかもしれませんが宜しいですか?」
どういうこと…?
これが私の限界って…こと?
血の気がすっと引いていく。
頭の中が真っ白になり、涙で視界がぼやけていく。
お腹が破れたら、生きてはいられない。
もう爆弾なんて関係ない。
私、このまま今日ここで死ぬんだ。
「爆弾を起動させますか?」
係員の淡々とした声が響く。