増えすぎた人口により世界規模で飢餓が蔓延。
残された僅かな資源を有効に活用するため各国で独自の施策を実施。
ある国では人口を減らす目的で個人の自殺を容認。
そして同時に、腹部の容量測定を義務化した。
「痛い!痛い痛いっ!!」
「いやぁ!!無理助けてぇっ!!!」
待合室に響き渡る女性たちの絶叫。

怖い。
今すぐ逃げ出したい。
でも、それは許されない。
腹部の容量測定。
対象は身体の柔らかい若い女性。
特別な器具でお腹に空気を注入され、規定量に達するまで終わらない。
達しなければ限界状態で放置され、大変な苦痛を伴うと聞く。
ボンッ!!!
「ーーっ!!あ、ぁ…っ、が…っ!!」
また1人、小型爆弾が爆発した。
苦痛に耐えきれない時はスイッチを要求することが出来る。
それを押すと体内の小型爆弾が作動。
一瞬の激痛の後、全てから解放される。
そう、先ほど説明された。
「穂乃香(ほのか)さん、4番まで来てください。」
先ほどの爆発で1人減り、私の番がやってきた。

同じ歳くらいの女性たちが、すでに検査を受けていた。
みんな、不自然にお腹が大きい。
でも、この部屋に妊婦は1人もいないはずだ。
「ここに座ってください。両手を縛ります。」
1つだけ空いた簡素な椅子へ誘導され、私は両手を縛られた。
足は縛られなかった。
お腹が膨らむと動けなくなるので必要ないと噂で聞いている。
先ほどまでこの椅子に座っていた声の主は、もうこの部屋にはいない。
それ以上のことは考えたくなかった。
「こちらが小型爆弾です。先に挿入しますね。」
「うひっ!?」
初めての経験に思わず、変な声が漏れる。
係員の女性が私の股の奥深くに小型爆弾をゆっくりと差し込んでいく。
ちなみに通常はもっと太いものらしい。
未経験の女性は配慮され、通常より細長いタイプになるそうだ。
「震えていますが、大丈夫ですか?もし爆弾の作動をご希望の場合は、遠慮なくお知らせください。それでは次に、お尻のほうへ器具を挿入しますね。」
プシュ!!!
「うぅっ!?」
お尻にも何かが挿入され、抜け止めが中で膨らむ。
急激なトイレ欲求に襲われ、足先がモゾモゾと勝手に動く。
「続いて、これを飲んでください。」
手渡されたのは、飴玉のような小さくて丸い物体。
口に入れても甘さはなく、喉が少し細い私でも簡単に飲み込めた。
「っ!?うぐっ!?」
飲み込んだ直後、不快な満腹感に襲われる。
でも、息苦しいほどではない。
腹八分目くらいの感覚。
「気持ち悪くないですか?お腹を確認しますね。」
お腹の内側に異物が存在する感触。
多分さっき飲んだ飴玉が中で膨らんでいる。
きっとこれは、お尻から入れた空気が漏れないようにするための“漏れ止め”なのだろう。
「大丈夫ですね。これから大変な苦痛になります。ここで最期を遂げる方も少なくありません。最期にご家族に伝えておきたいこと等はありますか?」
「え、あ…わ、私が戻らなくても…み、みんなは元気に…元気に……うぅっ、ぐすっ………」
家族の顔を思い浮かべた瞬間、不意に感情が溢れ出した。
言葉の途中で声が震え、息もうまく吸えない。
涙で目の前が滲んでいく。
嫌味のひとつでも言ってやろうと思ったのに、泣き混じりの声しか出てこない。
「……もじ…戻らなぐでも私の…ごど…忘れないでぐだざいっ……」
それ以上声にならず、嗚咽しか出てこない。
顔も鼻水と涙でぐしゃぐしゃ。
結局、自分でも何を言ったか全く覚えていない。
「分かりました。穂乃香さんの思いは私が責任を持ってご家族へお伝えします。落ち着いたら検査を開始しますね。」
係員に背中を優しく撫でられる。
その温もりに余計に涙があふれてきて、部屋に大きな嗚咽が響いた。
この涙が止まったら、いよいよ私の検査が始まる。
「それでは検査を開始します。本日の目標は5000ccで、最終的に10000ccを超えたら検査終了です。」
いよいよ始まる。
今日で5000ccも入れるんだ。
私のお腹そんなに入るかな…?
不安が胸の奥からじわじわと広がっていく。
「それではまず1000ccです。」
シュー……
機械から空気が送り込まれる音が静かに響く。
お尻から冷たいものが流れ込む感覚。
お腹の皮膚がゆっくり引っ張られて、少しずつ持ち上がっていく。
昨日、中身を全部出してきたので、このくらいの量なら違和感や痛みはない。
「大丈夫ですか?それでは2000ccです。」
シュー……
また空気の流れる音が響く。
ゴロッ…ギュルッ……
お腹の中で空気が移動する音がした。
服の上からでも、お腹が丸みを帯びてきたのが分かる。
それでも不思議と痛みも苦しさも全くない。
これって私、お腹が膨らむ素質みたいなのあるのかな?
もっと辛いものだと思ってたけど、正直楽勝。

「大丈夫ですね。じゃあ3000ccです。」
シュー……
グルルッ!!!ゴロロロロロロロッ!!!
「うっ!?」
さっきまで何ともなかったお腹が、突然キリキリと痛み出した。
空気が送り込まれるたび、痛みがどんどん強くなる。
酷い圧迫感。
お腹が締め付けられるように苦しい。
「ま、待ってください…お腹、痛いです……」
シュー……
それでも、空気は止まらない。
「やだっ、お腹っ…も、もう入んない…いやぁぁっ!!」
検査服がピンと張ってお腹が信じられないほど大きく盛り上がってる。
おかしい。
ついさっきまで平気だったのにっ!?
激しい腹痛に目の前がぐらぐら揺れる。
寒くもないのに身体がガタガタ震えて止まらない。
こんなの無理…ありえない……。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫ですか?」
私は無言で首を左右に振った。
心臓が激しく脈打つ。
どれだけ息をしても苦しくて過呼吸状態。
「もし爆弾の起動がご希望でしたらお伝えください。」
「っ!?」
や、やだ……
そんなの絶対ダメ!!
こんな姿のまま死ぬなんて絶対にイヤッ!!
「大丈夫、大丈夫だ…ほら落ち着いて…私……」
自分に言い聞かせるように小さく呟く。
恐怖を押し殺すように深呼吸を何度も繰り返す。
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
この為に何度も検査をクリアした人たちの動画を見んだ。
少しずつだけど痛みが引いて身体が楽になってきた。

「落ち着きましたか?次は4000ccです」
シュー……
ギュルルルルルルッ!!!
「はぅ!?あ、待って…お願いっ!!」
また空気が流れ込んできて、お腹がさらに大きくなる。
皮膚が限界まで引き伸ばされるような感覚。
腸が今にも破裂しそうで、痛みで目の前にチカチカと白いものが出現する。
「もう、限界が近そうですね。ここからゆっくり入れるので安心してください。」
「ま、待って…ください…す、少し休憩…もう本当に…っ!」
震える声で懸命に訴える。
「分かりました。落ち着いたら教えてください。」
だめ…お腹…爆ぜ…る……
息を吸うだけでお腹の中身が皮膚を突き破って出てきそう。
ミヂミヂッ…
「いっ…ぎぎ…っ…」
腸が今にも千切れそうになり下腹部が激しく痛む。
痛みで…意識が…
だ、だめ…しっかりして、私。
お風呂場で必死に練習したことを思い出して。
ゆっくり身体を起こして息を吐く。
「ふうぅぅー……」
続いて腰をゆっくりと左に捻る。
グググッ……
腸に詰まった空気が押し出されプスップスッと生々しい音が響く。
内臓が擦れ合ってぐちゅぐちゅとした不快な感覚。
ギュロロロロロッ!!!ゴボゴボゴボッ!!!
突然、ボコッと鳩尾が迫り上がった。
無理やり移動した空気が胃袋を圧迫し風船のように膨らませる。
「こぷっ!?」
強い吐き気。
でも、さっき飲んだ飴玉のせいで口から涎しか出てこない。
力を入れちゃダメ。
ここで無理をしたらお腹が破れるって動画で言ってた。
少しだけ我慢。
ゆっくりとお腹の張りが収まっていく。
下腹部の痛みが胃袋に移動してキリキリと痛みだした。
諦めない。
絶対に。
みんなと帰るって約束したんだ。
こんな序盤でギブアップなんか出来ない。
「大丈夫そうですか?」
私は涙目のまま必死に頷いた。
「じゃあ5000ccです。ゆっくり入れるますね。」
シュー……
ギュロロッ!!!ゴロロロロロロッ!!!!!!!
「うっ…がっ、あぁっ…!はひゅ、ひゅぅ……」

内臓が押し潰されねじ切られるような激しい痛み。
お腹の中で空気が暴れて…っ……
ボ…ボコッボコッって…うっ、動いてる…っ!?
「ううぅ…うううああぁ……」
痛くて苦しくて声が勝手に出ちゃう。
汗が滝みたいに流れて止まらない。
先に脱水で死んじゃうんじゃないの?
プシャァァァァ……
あぁ、漏らしちゃった。
だめ、もうそこまで意識が回らない。
目の前が暗く。
あ、これが失神なんだ。
良かった。
少しだけ楽に…なれ…る………
