奴隷タンク(序章)
<第1章:安全弁(あんぜんべん)>
ご主人様の手がセリナのお腹を容赦なく押しつぶしていきます。
喉がひくひくって動いて、お腹が苦しそうに波打って・・・
「ぐぅ…っ、がはっ…おぼぉ!!」

家庭用奴隷タンク。
それが私たちの呼ばれ方。
乾燥しているこの国では水と木はとても貴重。
本当なら木で作る樽も、この国では殆ど作れない。
だから代わりに選ばれたのが私たちみたいな奴隷。
ご主人様は、人間の胃や腸を「水袋」の代わりに使います。
このほうが安上がりだし、壊れてもすぐに新しいものに交換できるから便利だって。
私たちは水を貯めるだけのただの道具です。
セリナが床に崩れ落ちて、こぼれた水が地面に広がっていきます。
ご主人様は何も言わず、次は誰だと言わんばかりに私たちを睨みました。
「何ぼさっとしてんだ!!お前も早く出せ!!」
「お、おやめくださいご主人様…っ!うぶっ、ごほぉ、ごぼぼぉぉ!!!」

ご主人様の足が無慈悲にお腹へ食い込む。
その瞬間、エマの口から大量の水が勢いよく噴き出しました。
「おい!!早く出せ!!お前たちの腸が吸っちまう前にな!!」
「ごぼ、ごぶぅ…!げほっ、ごぼぼぉ…っ!」
エマが水と涙でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けてきます。
次は・・・私です。
ご主人様の重たい足音が、私にゆっくり近づいてきます。
心臓がドクドク鳴って、全身が震えてきました。
「あ…あぁ…ごめんなさい、ごめんなさ…うっ!?」

お腹を強く押される。
けれど私は、魔法のせいで水を吐くことが出来ません。
「今日は強い雨が降る。お前は“安全弁”としての役割を果たせ。」
安全弁。
それは他のみんなより先に壊れる役目です。
雨水のホースは三つ又になっているので、水はみんな均等に流れてきます。
普段の雨なら問題ありません。
大雨の日だけ、“安全弁”の私のお腹がみんなより先に限界になります。
それで残った2人分だけ助かる仕組みなんです。
でも、それはつまり・・・
私だけ“助からない”そういう役目ということです。
「分かったか!!」
「は、はい。リナは、安全弁として命を懸けてセリナ様とエマ様をお守りします。」

ご主人様は家の中へ入ってしまいました。
外には私たちだけ残されています。
「リナ!エマ!大丈夫!?」
セリナがすぐ来てくれました。
「げほっ…げほっ…私はなんとか、でもリナが……」
エマが心配そうにこちらを見る。
「…っ…ひくっ……」
声にならなくて、涙だけぽろぽろ頬を伝ってきました。
身体もずっと震えたままです。
ご主人様は今日、強い雨が降ると言っていました。
私の命は今日までかもしれません。
皮膚が薄く伸びて、お腹が内側からギリギリと引き裂ける。
お腹の奥で何かがぐちゃっと弾けて、中身が溢れ出して床に広がっていく。
息も出来ないほどの激しい痛みが永遠に続いてそして・・・
そんな場面ばかり頭の中でぐるぐる回って、おかしくなりそうです。
怖くて、どうしたらいいかわからなくて、どうして私が、こんな役目に…っ。
「…できるだけ、私とエマで引き受ける。絶対にお前を犠牲にしない。」
セリナは静かに私を見ながら言いました。
